新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。早稲田実業学校へようこそ。

本校は1901年に設立されました。設立当初の校名は早稲田実業中学でした。それから100年にわたり早稲田の地で多くの人材を育ててきました。そして、創立100周年である2001年に早稲田から国分寺に移り、翌2002年に男女共学、初等部開設という大変革を遂げ、今日に至っています。皆さんが本校に入学した今年は、創立から119年目ということになります。とても長い歴史があります。

もちろん、その間ずっと変わらない学校であったわけではありません。早稲田大学(当時は東京専門学校)に商科を設置する準備もかねて中等教育での商業教育を始めた時期、早稲田大学とたもとを分かち独自の実業教育を発展させた時期、早稲田大学との関係が復活し系属校第一号となった時期(この時期は商業科と普通科を併設していました)、そして国分寺移転、男女共学、初等部設置を行い、ほぼ全員が早稲田大学に推薦されるようになった時期。それぞれの時期の学校の姿は大きく異なっています。本校は、明治、大正、昭和、平成の四つの時代を、時代とともにたくましく、そしてしなやかに変化し続けてきました。

このような変化を続ける中で、変わることなく守り続けているものがあります。それが校是、校訓です。学校の最も大切な方針を端的な言葉で表したものです。学校の背骨のようなものです。在校生の皆さんはもちろんよく知っていますよね。校是が「去華就実」、校訓が「三敬主義」です。

見た目の派手さを求めず、実質、内実を大切にするというのが「去華就実」です。他を敬し、己を敬し、事物を敬す。これが「三敬主義」です。人というのは苦手な部分もあれば得意な部分もある、欠点もあれば長所もある。早く成長する人もいれば遅く成長する人もいる。それらをひっくるめてその人そのものに敬意をはらう、リスペクトする。これが「他を敬す」です。

それは自分自身に対しても同じです。自分自身に劣っている点があっても卑下しない。他人と違うのは当たり前なので、自分自身の存在もまるごとそのまま敬意をもって受け入れる。そしてそれを踏まえてどう成長しようか真剣に考え、実践する。これが「己を敬す」です。

物事をうわべだけで判断しないのは当然ですが、敬意をもって接するというのは、物事の本質を見極め、真摯な態度で接するということです。これが「事物を敬す」です。

実は本校の校是、校訓は早稲田大学の教旨(「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」)のように学校の目指す「目的」が明確に書かれているわけではありません。「目的」そのものではなく、目指すべき「学校としての在り方」「人としての在り方」が書かれているのです。早稲田実業学校として、その「学校としての在り方」「人としての在り方」を追求し続けた結果が、先に記したような時代とともにたくましく、そしてしなやかに変化し続けることであったと言うこともできます。

皆さんは3年間、6年間あるいは12年間「去華就実」「三敬主義」という器、在り方の中で、学んでいくことになります。この器の中でしっかりと成長する、その成長の方向は様々であるけれども、人としての在り方は共通している。これこそが早稲田実業の伝統なのだと思います。本校の卒業生は様々な分野で、また世界各地、日本各地で活躍していますが、いずれも、共通するのは校是、校訓のもとで培われた優れた人間性です。皆さんもこの器の中でしっかりと人としての在り方を学び、成長していってください。

私たちは様々な文化的・社会的背景を持った、自分とは異なる人々と共に生きていかなければなりません。これは今後ますます進んでいくグローバル化の中で、国の内外を問わず私たちが直面する問題です。そのときに最も大事なのは他者を敬することです。お互いの価値観が違うのは当然のこと。だからこそ他の人たちを理解し、コミュニケーションをとっていこうとする態度が必要なのです。文化のぶつかり合い、価値観のぶつかり合いを克服できるのは、他者への敬意であり、他者を理解し、共に歩んでいこうという強い意志に他なりません。その意味で本校の校是、校訓は一見古めかしく見えますが、これからの時代に目指すべき人としての在り方を明確に示していると言えるでしょう。

皆さんの本校での成長を期待しています。

原載:『早実通信』197号(2019年4月)