今年は新型コロナウイルスに翻弄された1年でした。本校では3月2日から臨時休校の措置をとりました。中高等部では学年末試験をあと2日残した時点での休校でした。その後、5月末まではほんの数回の登校日を除き、児童・生徒のみなさんは自宅で過ごすことになりました。5月の連休明けからの遠隔(オンライン)授業、6月からの分散登校、短縮授業を経て、夏休みが終わった後に、ようやく通常の学校に近い形に戻りました。
運動会、体育祭は全学年そろった形ではなく、学年別に短縮した形で行いました。中高等部の文化祭はオンラインでの実施となりました。また、中高等部の校外教室などたくさんの行事が中止になりました。
現在は通常に近い学校生活に戻りましたが、様々な制限があります。毎日の検温や体調管理、手洗い、マスク着用などは現在も引き続きしっかり行ってもらっています。昼食の時間も食べている間は話をしないように、また学校からの帰宅途中などに生徒同士で飲食をしないようにしてもらっています。このような制限があってはじめて、なんとか学校に児童・生徒の皆さんを迎え入れ、日々の授業を行うことができています。これらの制限はまだしばらくの間は続きます。
日本のほとんどの小学生、中学生、高校生は、だいたい本校と同じような経緯を経て、様々な制限はありながらも、通常に近い形で毎日登校できるようになっています。
一方で、日本の多くの大学生は、現在もオンライン授業を受けています。とりわけ首都圏の大学では、ほとんどの授業がオンラインで実施され、大学の教室での対面授業はごく一部にとどまっています。私も早稲田大学の授業は全てオンラインで行っています。
大学の授業が通常の形に戻らないのには様々な理由があります。1クラス30数名~40数名で、毎日ほぼ同じ教室で授業を受ける形になっている小中高と、科目によって数名~数百名とクラスサイズが異なり、学生が毎時間教室を移動しながら授業を受ける大学では、コロナ対策の方法が全く違うものになります。学校に集まる学生数も早稲田大学のような規模になると数万人になり、数百人から数千人規模に収まる小中高とは一桁違います。さらに、海外からの留学生や地方出身の学生が少なくないことも、大学が対面授業に踏み切れない大きな理由になっています。春からオンライン授業が続いていますので、留学生や地方出身の学生にはそれぞれの国や実家でオンライン授業を受けている人も多くいます。対面授業に切り替えるということは、それらの人たちが海外や地方から東京に移動してくることが前提になります。
もう一つの理由として、当初は教員と学生の双方が突然始まったオンライン授業にとまどっていたものが、時間がたつにつれて慣れてきて、オンライン授業そのものに対する評価が高まってきたこともあります。オンライン授業に対する学生アンケートでも肯定的評価が多くなっています。
そもそも大学では、以前からオンライン学習と対面授業を組み合わせたハイブリッド型の教育への移行が進められていました。来年以降の大学は従来のような対面授業に戻るという方向に進むのではなく、今回のコロナ禍で進んだオンライン授業への慣れをうまく利用する形で、ハイブリッド型教育への転換が一気に進むのではないかと思います。
これは大学だけの話ではなく、社会全体がその方向に進んでいると考えた方が良さそうです。ある特定の場所に集まらないとできないこと、特定の場所に集まらなくてもできること、個別にすべきこと、集団ですべきこと、リアルタイムでつながらないといけないこと、リアルタイムでつながらなくても良いことなど、様々なケースにあわせて、学習や仕事の場や方法を変えるのが普通になっていくでしょう。ネット社会というのは、すべてのことが否応なくハイブリッド化する社会なのかも知れません。
小中高はすでに毎日学校に通う形に戻っていますので、先に記した様々な制限以外は何も変わっていないように見えますが、ハイブリッド化に向かう大きな流れとは無縁ではありません。本校においてもわずか一か月間のオンライン授業でしたが、その後の平常化した授業の中でも様々な形でその経験が生かされています。小中高も変わりつつあります。
原載:『早実通信』204号(2020年12月)