早稲田大学の理事で、学生、附属・系属校を担当しています。ご覧になってお分かりになるように、早稲田は実は遅れています。立命館さんでも、慶應義塾さんでも、一貫教育担当なのですが、われわれのところは、相変わらず附属・系属校担当ということで、大学と高校をどう接続していくかという点では、明らかに組織からして遅れているわけです。
実は今年の6月に教務部の組織としては附属・系属校プロジェクト室から高大接続推進課に変わりました。理事の担当はまだ変わっていません。
そういう意味で、今日、私がお話をするというのは、ひょっとしたら1周遅れのランナーが、一所懸命、前に行くランナーを追いかけ、追い越そうとしているという、そういう話にしかならないかもしれません。
いま大学は、とにかく変わろうとしています。2020年の入試改革というのは、要するに大学教育を変えたいということです。ただ現在の入試は大学からするとしっかりと機能している側面があります。今の大学入試で取りたい人を取れているのです。大学に入るためには一定の知識を覚えなければいけない。これを地道に一所懸命やって、いろんな工夫をして覚えて、ある水準まで来た人を入学させる。大学ではその人たちを教育してさらにそれを引き上げるという意味で、大学から見るとものすごく機能しているのです。
けども、試験制度というものには二つの側面があって、一つは選抜する側にとって選抜に役に立つということ、もう一つは、試験制度ができると多くの人はそれを目指して学ぶようになるので、学びに役立つ試験制度になっているかどうかということがあります。
いま問題とされているのは、学びに役立つ試験制度になっていないのではないかということです。中学、高校の教育を瓦解させているのは大学入試ではないかということで、このことを私たちは非常に強く意識しています。
とにかく、大学入試を変えなければいけない。それが変わってくると、入ってくる学生も変わるわけです。いまは知識ベースの試験をやっているので、その知識をクリアした学生を教育していくということなのだけども、そうではない入試になれば、そうではない学生をどうやって教育するのかという話になってきます。
本日は大学教育改革の方向性、それから大学教育改革という文脈の中での附属校の在り方、そして、高大接続、高大連携、つまり3+4の7年の一貫教育、あるいは。3+3+4の10年一貫教育ということになるということですけども、その辺りのところを少しお話しさせていただきます。
はじめに大学改革の方向性ですが、まずは18歳人口の減少。これはとても大きな問題です。それから社会、教育のグローバル化。ICTや交通機関の発達等によって、とにかくもう日本の中にいてもグローバルの中にいるのと同じ状況になりました。大学も世界の中での大学として評価されるようになりました。世界大学ランキングが出てきたら、日本の大学もこういう大学のいわゆる序列の中に並べられるようになりました。
かつては都道府県にある大学を頂点にしたものができていました。あるいは、九州なら九州の中でひとつのまとまりが出来ていて、そこから出る人というのはあまりいませんでした。それが共通一次試験以降、全国の中の序列ができました。それと同じことがグローバルの中で起きている。人の行き来も含めて起きているのがグローバル化です。
それともう一つが、知識基盤社会への移行ということで、要するに知識そのものが大事ではなく、それを使ってどうやって物事を解決していくのか。そちらの方の能力こそが大事だという方向に移っているということです。
最初の問題は、18歳人口の減少が起きたら、学生の質と量をどうやって確保しようかという問題です。これは非常に大きな問題です。場合によっては、学生定員を満たさないからどうしようか。閉じるか。中高の中には、大学を閉じて中高に全力を投入するという決断をされた学校もあります。また、日本の学生が足りないのだったら外国から取る。すると外国からどうやって優秀な学生を呼び込むかいう問題があります。
いままでこのラインだったところが、要するに減るということは、ラインがこう下がる。どうしても必然的にこう下がるわけですから、これを下げないためには、どうするかというと、人数を減らすという方法が当然一つある。もう一つは、高校でこれまでより良い教育をしてくれれば下がらない。みんな底上がりになりますから、同じレベルの子たちをずっと入れることができるということになります。
次に社会、教育のグローバル化の問題。これは先ほど申し上げましたように、これまでは日本の中で競争すればよかった。日本の中で全て考えることができたのですが、もう様々な国際ランキングがあり、日本の学生も海外に行くようになります。早稲田の附属・系属校を卒業しても、早稲田大学に来てくれなくて、ほかの大学に行ってしまう。あるいは、高校時代に留学に行って、留学先でそのまま残ってしまう。そういったことも含めて、グローバル化が非常に進んでいる。
そうすると何が起きるかというと、われわれの大学はどこを目指すのかということです。地域の大学を目指すのか。グローバル化の中での地域の大学を目指すのか。グローバル化の中での日本の大学を目指すのか。グローバル化の中でのアジアの大学を目指すのか。グローバル化の中で世界の大学を目指すのかというのは、それぞれの大学が決めなければいけない。自分の大学はここを目指すのだということを決めて、それに向けて戦略的に考えていかなければいけない。そういうことになります。
最後に知識基盤社会への移行の問題。これは当然ながら授業の内容を抜本的に変えなければいけないということですよね。いま私がしているような授業はしてはいけないということです。これは単なる講義ですから、何も皆さんに問い掛けていなくて、私が一方的にしゃべっているだけで、実はこんなのはビデオに撮って、見ていればいいだけのことですよね。当然、大学でもやってはいけないのです。いわゆるレクチャーなどというようなもので、全てが成り立つようなことは、もうできないということなのです。
この三つの問題にVision 150という中長期計画の中で取り組んでいます。2032年に早稲田大学は150周年を迎えます。その時に早稲田大学はどうなっていなければいけないのか、どうなっていたいのかというビジョンをまず決め、そのための計画を立てました。2012年に策定しましたので、その時からすると20年計画です。いま2017年ですから、残り15年の計画です。
四つのビジョンを掲げました。「世界に貢献する高い志を持った学生」早稲田大学にはそういう学生ばかりいるということ。「世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する研究」世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する研究が、いたるところで行われているということ。「グローバルリーダーとして社会を支える卒業生」それから、卒業生。グローバルリーダーとして社会を支えている卒業生が世の中にいっぱいいると。「アジアの大学のモデルとなる進化する大学」これらと合わせて、そういったものを進めていけるような、常に進化していくような大学組織になっている、システムとしてそうなっているということ。この四つ。これがビジョンです。
このビジョンをどうやって実現するかというので年次計画を作りました。数値目標もたくさん作りました。その中の一部を挙げてみます。学部生を減らします。44,000人を35,000人にします。大学院生は9,400人を15,000人にする。社会人教育も35,000人から50,000人にするなどです。これは5年前に決めたことなのです。今年の入試で早稲田大学が合格者を2,000人減らしたというのがニュースになっていましたけども、これはVision150を読んでいただければ、ある意味、当たり前の歩みの中にいるということです。良い学部教育をするためには、たくさん学生を抱えては駄目だという決断をしました。
財務的には大変です。財務的には人数が多ければ多いほど豊かになって、色々なことができるのだけども、それでも、やっぱり質の高い教育をするためには、学生を抱えすぎないこと。定員通りしっかり取って、あるいは、定員よりも少々下回るとか、定員自体を小さくするという可能性も視野に入れて、3,5000人にするということにしました。その一方で、大学院生と社会人教育を増やすということを考えました。逆にいろいろな手段を使って教員は増やしていきます。1,700人から2,000人に。
また留学生も増やします。留学生を1万人に増やすということで、これはどう考えても学部生のところも留学生が入ってくるから、日本人学生ってがんと減るんですよね。5万人のうちの1万人は少なくとも留学生になっていくというわけですから、2割が留学生という、そういうキャンパスにしようということです。海外派遣学生は、その当時、2,400人の学生が毎年海外に出ていました。それを全学生が、在学中に必ず一度は留学する。短期のものも含めて、必ず一度は留学するというシステムをつくることにしました。こういった数値目標に向かって、毎年毎年チェックして、再度それを修正するということを、これまで5年してきました。
その中でやはり教育をどう変えていくのかというのが大きな問題でした。グローバルリーダー育成に向けた教育改革をする場合に、基本的な要素として、これらのものがあります。「個性豊かで多様な学生・教職員等の切磋琢磨を通じて人間力を涵養する」「グローバル水準の教育制度・教育システム開発」「授業のグローバル化」「教職員のグローバル化」「海外発信力の強化」。早稲田は世界の大学を目指すことにしました。アジアのハブになって、世界の。そうするとグローバル水準の教育をしなければいけない。地域の大学でもそうです。地域の大学でも、グローバル社会の中の大学だから、そこの中の教育はグローバルな教育でないと実は地域の大学としても生きていけないということになります。そのためには何をしなければいけないかというと、一つは評価方法の問題があります。
評価方法に関しては、小中の方が早くて、既にルーブリック的な評価になっているのですが、大学は相変わらずA、B、Cとか、100、90、80とか、単一の数値評価で終わっているわけです。また早稲田大学の場合は、各学部に同じような科目がばらばらにありますが、これらをナンバリングして、この科目とこの科目は似たようなレベルの科目、同じような内容の科目とかいうことを一目瞭然にする。受ける人たち、学生たちが、この科目はいったいどのレベルの何を学ぶものなのかということが分かるように可視化することにしました。
そして最も重要なのは、授業のグローバル化です。対話型問題発見、解決型の授業への移行です。それから、授業を公開するということです。どんな授業をやっているのか人の授業を見ることができる。それから、学生たちも自分が受ける前に、いったいどんな授業をやっているのか見ることができれば、ミスマッチはないでしょう。そういうことをすればするほど、望むべき方向に近づいていくでしょうということなのです。
私立の大学は理事になっても教員であることが普通です。私も90分授業を週7コマ持っています。高校で計算すると週14時間の授業を持っていることになります。私は、ある意味プロの教員なのです。中学、高校の先生方もプロの教員なのですけども、ほとんどの先生方が自分の授業を見たことがない。これってあり得ないですよね。だって、プロのスポーツ選手が、自分の試合を一度もビデオで振り返ったことがないなんて、あり得ないじゃないですか。ほかの試合を見たことがないプロの選手ってあり得ない。
でも、教育の世界は、それが許されていて、自分がどんな授業をやっているかを見たことがなくても、プロの教員として、プロのアスリートとして生きていけるという特殊な世界なのです、ある意味。自分たちはプロの教員なので、見なければいけない。僕も録画して見ました。恥ずかしくなってしまいました。何だ、これはって。実は自分の授業のビデオを見ることによって、自分がいかに学生とか生徒が聞くだけで、しかも寝てしまうような授業をしているのかというのが分かるはずなんです。
そういったことも含めてどうしようかというので、早稲田も公開授業をはじめました。公開授業の時間をリストにして、見たい人はそこを見に行くというような形のことをやっています。また、良い授業をしている人を表彰するようにしました。
それからTA(ティーチング・アシスタント)制度も充実させてきています。大学院生等に授業の補助をしてもらうものですが、大人数の教室でも、教員による講義の後にTAが小さなゼミのようなものをやるとかいう形もあります。普通の教室でも、そこにTAが一人入れば、また別の学びなっていくと思うんですけども。そういったようなことをしています。
全学的な教育の転換を図るためにグローバルエデュケーションセンター(GEC)をつくりました。各学部の専門科目も変わっていく必要があるんだけども、全学生に必要な入門的な科目として、アカデミックライティングとか、統計、情報、チュートリアルイングリッシュといったものを設置しています。チュートリアルイングリッシュというのは、教員一人に学生4人で行う授業で、知識は持っているけども、コミュニケーションはできないという受験英語から、一気にコミュニケーションの世界に変えてしまうという授業です。
それから、ボランティア教育やキャリア教育などかつての一般教育という発想ではなく、基盤教育として何が必要なのかということを考えています。また副専攻科目群を作り、必要な単位を取るとメジャーともう一つ副専攻の認定証を持って卒業していくことが出来るようにしています。
2014年には中野に留学生と日本人学生の混住寮をつくりました。定員870名の大規模寮です。様々な仕掛けを作りました。例えば、小さな個室です。個室とは言えないほどの、ベッドと一応机がある程度の小さな個人用の部屋四つにラウンジで構成されるユニットを作ったんです。そうすると4人でその空間を共有しないといけない。狭い個室にこもることもできるけど、何かしようと思ったらラウンジを使わないといけない。そこに留学生と日本人学生がいるので、その4人でまず最初にこのラウンジをどう使おうかという話をしないといけない。これからの世界は、自分とは違う人たち、自分とは違う文化、社会、言語の人たちとコミュニケーションをして、何らかのものをつくっていくという活動が必ず必要になります。寮に入った瞬間から、それをしなければいけないという仕組みを作ってみたわけです。その他にもいろいろな仕掛けのある寮を作りました。
Vision 150を策定した2年目に、スーパーグローバル大学(SGU)の募集がありました。Vision 150の策定の過程で、早稲田大学は、国際的な研究大学として生き残ることを選択しました。それを踏まえてスーパーグローバル大学の申請の際に提案したのがWasedaOcean構想というものです。
それぞれの大学が自分たちの生き残りを考える。どういう大学になるか。10年後、20年後、どういう大学になっていくか。早稲田大学は、国際的な研究大学として生き残ることを選択しました。
では、どういうかたちで国際的な研究大学として生き残っていくか。私たちが考えたキーワードは、開放性、流動性、多様性というこの三つです。早稲田大学が単独で研究を進めるだけでは世界でトップ100レベルになることはできない。では、どういうやり方でその地位を獲得することができるかというと、世界の中の大学とつながって、つながることで、その研究分野の中では欠くことのできない存在になっていく。これが早稲田大学の目指した戦略です。この研究分野だったら、早稲田と組まなければ駄目だよというような大学になっていくということで、まず六つのモデル拠点を作りました。日本文化学、数物系科学、ナノ・エネルギー、ICT・ロボット、健康スポーツ、実証政治経済学ということでスタートしました。全ての分野で早稲田単体で、世界の中で主要な位置を占めることはできないので、とにかくいろんなかたちでつながって、ハブの一つになればいい。そうすると早稲田で学んでいる学生は、当然どこかの大学に行ってもいい。大学院を早稲田でやらなくてもいい。大学院をスタンフォードに行くんだったら、スタンフォードに行ってください。そのまま就職してもいいし、戻ってくるんだったら、よかったら戻ってきてねという。どこかでこうやって流動していく、どこかで早稲田がかんでくれればいい。
そういう意味では中学、高校もそうです。本庄高等学院を卒業して、ほかの大学に行ってくれても構わないんです。必要な時期に、必要なことを早稲田で学んでもらい、どこかに行ってそこで活躍してもいいし、戻ってきてくれたらうれしいなという回遊の中で成長してくれれば良いという発想です。
QSランキングというものをご存知ですか?世界大学ランキングの有力なものの一つです。この総合ランキングでは日本の大学は東大、京大、東工大、阪大、東北大、名大、北大、九大、慶大の9大学が200位以内に入っています。早稲田は慶應の次で203位です。ここ4年間の推移は220→212→216→203で、あまり変化はありません。
これではトップ100レベルは無理ですよね。でもそれぞれの大学には得意な分野と不得意な分野があります。QSランキングでは分野別ランキングがあります。ここでは分野を大まかに5分野にまとめたランキングを見てみましょう。
人文科学ではこの4年間で118→132→76→45とものすごく上げてきています。もちろん国内では東大、京大につぐ第3位です。社会科学も144→80→82→59と上がっています。こちらも国内では東大、京大につぐ第3位です。
では、理工系はどうでしょう。工学も225→186→151→105です。225位だったのが、いま105位になっています。国内でも名大、北大、九大とほぼ並んでします。自然科学も278→148→224→102です。こちらは北大、九大とほぼ並んでいます。最後に生命科学・医学、これは400台です。これは医学部を持っていないのだから仕方がありません。これらを総合すると結局200前後になってしまいます。それでも、分野別にみれば、早稲田は何が強みなのか、それを見極めた上で、その強みを伸ばし、世界のハブとなっていくことを目指しているVision 150やWaseda Ocean構想の成果が確かに出はじめていることが分かります。
さて、大学教育改革の文脈の中での附属校ということですけども、同じ問題が当然附属校にもあるということです。18歳人口の減少というのは、15歳人口の減少ということに置き換わります。生徒の質、量の確保をどうするのかというのが大きな問題であるのは当然です。
それから、社会、教育のグローバル化。これもあります。私立の場合には学区はないのですが、公立の場合には、かつては小学区のこともありました。小学区であれば小学区の中だけで考える。中学区でも中学区の中だけ。大学区になってはじめて県レベルの中でどうなるかを考えることになります。
私立の場合には、もうすでに県も越えてしまっている。首都圏では埼玉、千葉、東京、神奈川に関しては、もう当然一緒の感覚だし、埼玉北部の本庄高等学院なら当然ながら群馬、栃木も射程に入って、要するに関東一円の中でどうかという、もうそういう状態になっています。どこから、どういう生徒を取っていくのかというのを戦略的に決めていかなければいけないことになります。
本庄高等学院では、新幹線を下りてご覧いただいていたように、いま女子寮をつくっています。120人の女子寮で、いま在来線の本庄駅前にこれもほぼ同じ規模の男子生徒、女子生徒が一緒に住んでいる寮があります。二つ合わせると200人を超える規模の寮になります。新たに寮をつくったということは、生徒募集の地域的なターゲットがこれまでとは異なってくるということです。また女子寮をつくったということは、男女比もこれまでとは変わってくるということでもあります。
やはり最大の課題は、大学と同じように、授業の内容、方法の抜本的見直しを行わなければいけないということです。管理職として、学校の教室をどういう教室にするか。特に校舎の建て替えとか、そういう場合があるときには、どういう教室空間にするのか。あるいは、機器の入れ替えがあるときに、どういう機器を、どういうふうに入れるのか。それぞれタブレットを持たせるのか。それが本当に有効なのかどうなのかとか、経営判断をしないといけないわけです。そういった物としての側面と、同時にどう教えるのかという教え方の問題やカリキュラムの問題もあります。実はカリキュラムも本来はあまり拘束がないはずなのに、だいたいどこの高校も同じカリキュラムになってしまっています。必須科目はそれほどたくさんあるわけではなくて、いろんな科目群を置けるし、学校設定科目なんかもずいぶん置けるわけですよね。だから、カリキュラムなんて、いくらでも変えようと思ったら変えることができる。
それらも含めて、授業内容、方法、それから、カリキュラムも、抜本的な見直しをするという必要が出てきている。なぜかというと、とにかく知識だけを得ればいいという時代ではなくなっていて、知識を使って協働作業をする過程を通して、何らかの答えを見いだしていくような知的な活動が、ある意味、何も考えなくても、そういうことができるような子どもを育てたいわけです。一定の知識のベースがなければ、そういう活動もできないので、一定のベースとなる知識は要るんだけれども、それをどう使うかということをするためには、実践的な部分が必要になります。実は大学が抱えている問題というのは、そのまま高校の問題でもあるということです。
早稲田大学には7つの附属・系属校があります。附属校は学校法人早稲田大学の中の学校で、系属校は、それぞれ別の学校法人になります。高等学院、本庄高等学院、早稲田実業はほぼ全員が早稲田大学に進学します。早稲田高校、早稲田佐賀高校、早稲田渋谷シンガポール校はほぼ5割、大阪にある早稲田摂陵高校からは1、2割が進学します。附属・系属校合わせた入学定員が2,160人。そこから大体1,500~1,600人ぐらいの学生が毎年早稲田に入ってくることになります。
先ほど将来的に学部学生数を35,000人にすると言いましたから、そのうちの6,000人以上が附属・系属校からの学生になりますので、約2割を占めることになります。附属、系属から来る人には、問題発見解決型の能力をしっかり身に付けている人たちに来てほしいということになります。
もう一つ、早稲田大学のいますごく大きな問題は、首都圏出身の学生の比率が年々高くなっているという問題があります。首都圏にある大学は国公立大学も含め全てその傾向にあります。東大もそうですけども、もう首都圏の大学は、首都圏の人たちしか来てくれなくなりつつある。大学は多様な学生が集まってともに切磋琢磨することに大きな意味があるので、首都圏の人たちだけになると多様性の維持が難しくなります。その点、首都圏以外の地にある附属・系属校は重要な役割を果たすことになります。先ほど本庄早稲田駅前に建設中の女子寮の話もしましたが、寮のある学校も同じように重要な役割を果たします。
さて、先ほどスーパーグローバル大学の話をしましたが、附属校である高等学院と本庄高等学院はスーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定を受けています。SGHというのは、生徒全員をグローバルな視野を持った問題発見解決型の生徒に育てていくという、一定の底上げと同時に、その中でもっと飛び抜けた子たちを育てていくということを目指しています。実は本当の課題は、そういった子たちが、大学に入ったときに、大学がどういうプログラムを用意するのかという点にあります。早稲田の場合はSGHからSGUにどのように接続していけるのかということです。これは実はなかなか難しいのです。
学校間の接続は、小学校から大学院までだと、小中接続、中高接続、高大接続、学部修士接続、修士博士接続の6段階があります。この中で実は中高接続はだいたい進んでいるんですよね。皆さん方の学校のほとんどのところは中高一貫だと思います。早稲田大学の附属・系属校では本庄高等学院とシンガポール校以外は、みんな中高です。ただ早稲田中学・高校以外は高校でも生徒を取っているので、完全な一貫ということではないんですけども。皆さん方、中高接続なんて当たり前だと思われていませんか。だって、同じ敷地内に中学と高校があって、中学のときに高校の科目をうまく落とし込んでカリキュラムを作っている。そのことによって実質的に乗り入れているんです。
実は学部、修士もそうです。学部も一般に3年か4年になると研究室に配属され、修士の先輩と一緒に学ぶ空間ができて、スムーズにいくんです。もちろん就職する学生もいれば、修士に進学する学生もいます。同じように修士、博士なんて、完全にそうですよね。修士から博士にそのままつながっていくというので、実はこの三つはうまくいっているんです。
小中はなかなか難しい点があります。でも、小中もいまはかなり進んでいます。早稲田実業だけは小学校を持っています。早稲田実業も中高接続はできていたんだけども、小中接続があまりできていませんでした。小中接続のための教員を新たに置いて、うまく接続できるように工夫を始めました。同じ敷地にありますので、うまく進んでいくと思います。
残るのは高大接続です。高大接続だけが実はほとんど進んでいません。高大接続とか、高大連携といいます。どこの大学もこのくらいのことはやっていると思うんです。例えば大学教員の模擬授業。学部説明会と合わせて模擬授業をやったりするということがあります。大学授業の先取り聴講。これもやっています。附属・系属校の生徒が高校時代に先取りした大学の科目を入学した後に大学の単位として認定するもので、いま100科目が対象になっています。高校生徒と大学生の訪問・交流というのも、留学生、あるいは部活の関係で、それぞれの学校に行って、生徒とコミュニケーションを取る機会であるとか、指導をする機会であるとか、授業のサポートをするというようなことをやっています。だいたいこの程度なんですね。これらはほかの接続のレベルと比べると格段に遅れています。ここのところを何とかしないといけない。
もう一部では始めていますが、大学の教員と高校の教員が一緒になって授業をする。高校教員と大学教員の協働授業です。これは高校の教員がいないと、高校の単位になりませんから。大学教員は教員免許を持っていない人が多いんです。それから、高校生と大学生の協働活動。例えばボランティアを一緒にやるとか、いろんな活動ができるはずです。
もう一つ大事なのは、高校、大学のカリキュラムの乗り入れです。ここの部分、いろんなことができるはずです。附属・系属校というか、一貫体制の学校の場合には、それこそが一番これからやらなければいけないことだと思います。いま早稲田もそれを検討しているところです。特に高校3年生のカリキュラムをどうするのかということです。
もう一つ大学がやらなければいけないことが、大学カリキュラムの多様化、個別化です。附属・系属校との高大接続が進んだ場合、これまでのように一般入試等で入ってくる他の学生と同じカリキュラム、プログラムしか用意してなかったら、何だよこれは、になってしまいますよね。
高大接続を進めるにあたり、大きな問題になるのは附属校といえども全ての生徒がそのまま系列の大学に行くわけではない点です。早稲田の附属・系属校でも、5割が他大学進学してしまう学校、8割以上が他大学に進学する学校があります。だったら、その部分を大学間で共有できないかということも考えるべきかもしれません。例えば早稲田大学と附属校である高等学院の乗り入れ科目として取った科目があります。これを例えば立教大学に行ったときに、立教大学の単位としても認めることができますというようなシステムを全体でつくっていく時期になっているんだろうなと思います。
この点では、附属・系属校というのは優位に立っています。自前のものを持っているわけですからお互いに融通しましょうというのを大学間、あるいは中高も合わせた協定を結んでいけばいいということになりますよね。だから、そういうことを考えていかなければいけないんじゃないかと思います。この点、附属校や附属校を持つ大学は非常に有利です。
最後に2020年の大学入試改革についてお話しします。現在、「大学入学者選抜改革推進委託事業」というのが進んでいます。人文社会 (地理歴史科・公民科)、人文社会分(国語科)、理数、情報、主体性等の5つの分野で事業が進められています。早稲田大学はそのうちの3つの分野で選定機関、連携機関として取り組んでいます。とにかく入試を変えていく。単なる知識を問う問題から、そうではないものに変えていくというので、まだ具体的なものは出てきていませんが、2020年の入試改革に向けて大きく動いていることは事実です。早稲田大学もそれに向けて真剣に取り組んでいます。
私の準備したものは以上です。早稲田大学は高大接続をこうやっていますという話ではなく、こうやろうとしていますという程度の内容になってしまいましたけども、一応ここまでとさせていただきます。どうもありがとうございました。
第22回全国私立大学附属・併設中学校・高等学校教育研究集会(2017)