- 学際コースの誕生
自然科学から人文・社会科学にいたる多くの専門領域からなる教育学部の特徴を生かし、既存の学問体系内では解決できない今日的課題に立ち向かう新しいタイプの知性を持った学生を生み出すことを目的に、2000年4月に発足したのが学際コースです。これまでの知識型あるいは技能習得型の教育観を超えた、問題発見・課題解決型の教育価値の創造をめざしたものでした。
- 学際コースから複合文化学科へ
学際コースの発展・継承として、さらに内容を充実させ、2007年4月に発足するのが複合文化学科です。学生の主体的な問題意識を尊重する自由で柔軟な姿勢を保持しながら、より一貫性を持った、体系的なカリキュラム内容を提供します。学際コースでは<地球システム領域><メディア・言語コミュニケーション領域><現代社会・文化領域>の3つの重点領域を設けていましたが、複合文化学科ではそれらをひとくくりにし、人の営み全てを広く文化現象ととらえ、考察の対象とします。そこには芸術や文学といった伝統的に文化とみなされているものから、マンガやJポップといったサブカルチャー、環境やテクノロジーといった現代社会の抱える問題系を全て含んでいます。重点領域を設けないのは、ひとつの枠組みの中に収斂してしまうのを避けることでもあります。
- 文化とは複合的なものである
新しい学科では、文化現象を研究対象とするわけですが、文化とは単一体のものではなく、さまざまな要素が複雑に絡み合ってできているものです。そして、それらを分析するためには常に複数の視点や方法論を組み合わせる必要があります。私たちはこのような認識に立って、文化について考察する方法を学び、複雑化する社会に生起するさまざまな課題に立ち向かっていける人材を養成しようと考えています。そのために単なる文化学科ではなく、複合文化学科という名称にしました。
- 新しい学びのプロセス
複合文化学科は教育学部に設置されるものですから、「教育」の面からも新しい試みを取り入れています。大学のカリキュラムは一般に、まず「**学とは何か」という全体像を示す概論や、専門的な概念や理論を学んだ後で、さまざまな具体的な事象に取り組んでいきます。つまり、[抽象→具体]という学びのプロセスをとっています。
複合文化学科では、概論や、専門的な概念や理論を学ぶ科目を2年次~3年次に置いています。新入生が最初に出会うのは、実際にさまざまな具体的な事象を複合文化学的に分析して見せる講義です。複合文化学的にアプローチすると、いま目の前にある事象がどのように見えてくるのか、複合文化学を学ぶことで何ができるのか、学生の皆さんに具体的イメージを持ってもらいます。まず具体的イメージから出発し、その後に専門的な概念や理論を学び、そして最後には学んだ概念や理論を利用しながら今度は自分自身で具体的な事象の分析をしてみる、という学びのプロセスをたどります。
この新しい学びのプロセスは、今後の大学教育の一つのモデルとなる可能性があります。
- 英語以外の外国語教育と情報教育の充実
文化や社会に対する複眼的な思考をつちかうための有力な方法として外国語の学習があります。複合文化学科では英語以外の外国語の学習にも力を入れています。複合文化学科では、ドイツ語・フランス語・中国語・スペイン語の中学・高校教員免許が取得できるようになる予定ですので、教育学部における教員養成の幅が一挙に広がります。とりわけスペイン語については早稲田大学において初めての、首都圏の大学でも数少ない教員免許取得可能な学科となります。
また情報教育にも力を入れています。現代社会の事象を分析するためには、情報通信ネットワークを活用して、情報を収集し編集していく力が必要です。「情報」「ネットワーク」といったもの自体が、現在そして今後の社会を読み解いていく際のキーワードでもあります。
- 多様な研究テーマ
複合文化学科の演習(ゼミ)は複数教員で担当します。また、3年では2つのゼミ、4年で1つのゼミを選択します。ですから3年では最低4名の教員と接し、4年でも2名の教員と接することになります。複合文化学科では最後まで「複合」にこだわっています。
各ゼミで想定されている研究テーマは以下の通りです。
メディア・知覚・身体 テクノロジーと大衆文化 グローバリズム・国家・エスニシティ 近代・反近代・超近代 ボーダー文化とポリフォニー 芸術・文学/翻訳・翻案 ネットワークとコミュニケーション 社会と環境 生命と地球 |
- 学際コースのみなさんへ
来年度から学際コース→複合文化学科への移行期間に入ります。これまで学際コースに設置されていた科目は、科目名称が変わるものも多いですが、内容面では、ほとんどが今後も維持されます。さらに複合文化学科で新規に開講される科目もたくさんありますが、これらの多くは、みなさん方も履修できるようにしてあります。特に2008年度からは、これまでより科目選択の幅が一挙に広がりますので、楽しみにしていてください。
- 他学科専修のみなさんへ
複合文化学科の設置科目の多くは、他学科専修のみなさんも履修できるようになっています。既存の学問分野と重なる部分もありますので、自分自身の興味にしたがって選択履修してください。複合文化学科は多くの他学科専修の教員の協力によって支えられています。ですから、できるだけ多くのものをみなさんに還元したいと考えています。
原載:『がくぶほう』(早稲田大学教育学部 2007年2月)